東京地方裁判所 平成10年(ワ)20610号・平10年(ワ)2630号・平10年(ワ)7201号 判決
平成一〇年(ワ)第二〇六一〇号事件被告(以下「原告」という。) 第一勧銀信用開発株式会社
右代表者代表取締役 四分一康男
右両名訴訟代理人弁護士 脇田眞憲
平成一〇年(ワ)第二〇六一〇号事件被告(以下「原告」という。) 第一生命保険相互会社
右代表者代表取締役 森田富治郎
右訴訟代理人弁護士 熊谷光喜
同 片山利弘
平成一〇年(ワ)第二六三〇号事件被告兼同年(ワ)第七二〇一号事件被告兼同年(ワ)第二〇六一〇号事件原告(以下「被告」という。) 増田カメ子
平成一〇年(ワ)第二六三〇号事件被告兼同年(ワ)第七二〇一号事件被告(以下「被告」という。) 増田久子
平成一〇年(ワ)第二〇六一〇号事件原告(以下「被告」という。) 榊弥太郎
平成一〇年(ワ)第二〇六一〇号事件原告(以下「被告」という。) 北村ハル子
平成一〇年(ワ)第二〇六一〇号事件原告(以下「被告」という。) 幾田常次郎
右五名訴訟代理人弁護士 福地直樹
同 櫻田喜貢穂
同 渡邉彰悟
主文
一 被告増田カメ子及び被告増田久子は、原告株式会社第一勧業銀行に対し、連帯して八二四〇万六二五〇円及び内金一〇〇〇万円に対する平成九年一月三日から、内金七〇〇〇万円に対する同年八月三日から各支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。
二 被告増田カメ子及び被告増田久子は、原告株式会社第一勧業銀行に対し、連帯して一〇四一万五六〇六円及び内金一〇〇〇万円に対する平成一〇年三月三日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。
三 被告らの主位的請求及び被告カメ子の予備的請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、被告らの負担とする。
五 この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
(平成一〇年(ワ)第二六三〇号事件)
主文第一項と同じ。
(平成一〇年(ワ)第七二〇一号事件)
主文第二項と同し。
(平成一〇年(ワ)第二〇六一〇号事件)
[主位的請求]
一 原告第一生命保険相互会社は、被告増田カメ子に対し、五七一九万九四〇〇円及びこれに対する平成二年七月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告株式会社第一勧業銀行及び原告第一生命保険相互会社は、被告増田カメ子に対し、連帯して四八八万三八八〇円及びこれに対する原告株式会社第一勧業銀行については平成一〇年九月二六日から、原告第一生命保険相互会社については同月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告第一勧銀信用開発株式会社は、被告増田カメ子、同榊、同北村、同幾田に対し、別紙物件目録記載の各物件について、東京法務局平成二年一〇月一六日受付第一三一六号根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。
[予備的請求]
四 原告第一生命保険相互会社は、被告増田カメ子に対し、八二五二万一五五四円及び内金五七一九万九四〇〇円に対する平成二年七月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を、内金二五三二万二一五四円に対する平成八年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第二事案の概要
平成一〇年(ワ)第二六三〇号事件及び同年(ワ)第七二〇一号事件は、原告株式会社第一勧業銀行(以下「原告銀行」という。)が、被告増田カメ子(以下「被告カメ子」という。)に対し、金銭消費貸借契約に基づき、被告増田久子(以下「被告久子」という。)に対し、連帯保証契約に基づき、貸付金及び約定の遅延損害金の支払を求め、同被告らは、右金銭消費貸借契約及び連帯保証契約が原告銀行の詐欺を理由に取り消したこと及び錯誤により無効であると主張する事案であり、平成一〇年(ワ)第二〇六一〇号事件は、原告銀行から借り受けた金員で保険料を一括して支払って、原告第一生命保険相互会社(以下「原告第一生命」という。)との間に変額保険契約を締結した被告カメ子が、原告第一生命に対し、同原告との間の変額保険契約が、原告第一生命の欺もう行為により締結されたのでこれを取り消したこと及び錯誤により無効であることを理由に、不当利得返還請求権に基づき、変額保険の保険料五七一九万九四〇〇円とこれに対する保険料受領の日の翌日である平成二年七月二八日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告第一生命及び原告銀行に対し、変額保険を締結するための原告銀行との金銭消費貸借契約、原告第一勧銀信用開発株式会社(以下「原告信用開発」という。)との保証委託契約及び根抵当権設定契約が原告第一生命及び同銀行共同による詐欺的手段及び説明義務違反によって締結されたことを理由に、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右各契約締結のために出捐した費用合計四八八万三八八〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告カメ子、同榊、同北村、同幾田は、原告信用開発に対し、同原告との間において、原告銀行との間の金銭消費貸借契約に基づく債務を担保するために締結した根抵当権設定契約を詐欺を理由に取り消したこと及び錯誤により無効であることを理由に、根抵当権設定登記の抹消登記手続を求め、被告カメ子は、予備的に、原告第一生命に対し、変額保険契約が詐欺的手段及び説明義務違反によって締結されたことを理由に、不法行為による損害賠償請求権に基づき、変額保険の保険料五七一九万九四〇〇円及びこれに対する保険料受領の日の翌日である平成二年七月二八日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払と変額保険を締結したことにより原告銀行との消費貸借契約の利息の支払を余儀なくされたとして、被告カメ子が支払った利息合計二五三二万二一五四円及びこれに対する利息を支払った日の翌日である平成八年九月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実及び証拠により認定した事実
1 被告カメ子は、当時五九歳で、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)のうち共有持分四二九六分の九〇〇を有し、原告第一生命との間に変額保険契約を締結し、原告銀行との間に金銭消費貸借契約を締結し、原告信用開発との間に保証委託契約と根抵当権設定契約を締結した者、被告久子は、被告カメ子の二女で原告銀行と被告カメ子の債務について連帯保証契約を締結した者、訴外榊スゞ(以下「訴外スゞ」という。)は、被告カメ子の母で本件土地のうち共有持分四二九六分の三三九六と別紙物件目録二記載の建物(以下「本件一建物」という。)を所有し、原告信用開発との間に根抵当権設定契約を締結した者、訴外増田勇(以下「訴外勇」という。)は、被告カメ子の夫で同目録三記載の建物(以下「本件二建物」という。)を所有し、原告信用開発との間に根抵当権設定契約を締結した者、被告榊弥太郎、同北村ハル子及び同幾田常次郎は、訴外スゞの相続人として、本件土地の訴外スゞの共有持分及び本件一建物を相続した者である。
訴外加藤幾代(以下「訴外加藤」という。)は、原告第一生命新宿支社新都心支部の外務員で被告カメ子及び同久子に変額保険の加入を勧め、本件各変額保険契約の担当者となった者、訴外村瀬敏彦(以下「訴外村瀬」という。)は被告第一生命の社員で被告カメ子及び同久子に変額保険について説明を行った者、訴外森(以下「訴外森」という。)は、原告第一生命新宿支社新都心支部の支部長代理であった者、訴外佐伯淳(以下「訴外佐伯」という。)は、原告銀行の行員で、被告カメ子らとの間に金銭消費貸借契約等の締結に当たった者である(争いない事実と甲七ないし九、一四、一五(枝番も含む。)、証人村瀬、同加藤、同佐伯、被告カメ子、同久子)。
2 被告カメ子は、原告第一生命との間において、次のとおり変額保険(終身型)契約(以下「本件各変額保険契約」という。)を締結し、平成二年七月二七日、同被告に対し、保険料五七一九万九四〇〇円を支払った(争いない事実)。
(一) 保険証券番号九〇〇八-〇九五、二七五-三
契約日 平成二年八月一日
一時払保険料一八五五万四四〇〇円
被保険者 鈴木好子
保険金受取人被告カメ子
基本保険金 一億円
(二) 保険証券番号九〇〇八-〇六〇、六四五-二
契約日 平成二年八月一日
一時払保険料二〇〇七万七〇〇〇円
被保険者 被告久子
保険金受取人被告カメ子
基本保険金 一億円
(三) 保険証券番号九〇〇八-一〇七、七四五-五
契約日 平成二年八月一日
一時払保険料一八五六万八〇〇〇円
被保険者 田中利江
保険金受取人被告カメ子
基本保険金 一億円
3 被告カメ子と原告は、次のとおり金銭消費貸借契約を締結した(争いない事実と甲一ないし四、一一(枝番も含む。))。
(一) 被告カメ子は、原告銀行との間において、本件各変額保険の保険料の支払のために、次のとおり金銭消費貸借契約(以下「本件一消費貸借契約」という。)を締結した。
契約日 平成二年七月二七日
元本 七〇〇〇万円
弁済期 平成七年八月二日限り一括返済
利息 年七・六パーセント
遅延損害金 年一四パーセント
利息の支払方法 平成二年九月二日を第一回として返済期限の応答日に一箇月分の利息を支払う。
(二) 被告カメ子は、原告銀行との間において、本件一消費貸借契約について、次のとおりの変更契約を締結した(以下「本件二消費貸借契約」という。)が、弁済日において、元本七〇〇〇万円及び利息二二九万六八七五円(別紙利息計算表(1) のとおり)を支払わない。
契約日 平成七年八月二日
元本 七〇〇〇万円
弁済期 平成九年八月二日限り一括返済
利息 年三・〇パーセント
遅延損害金 年一四パーセント
利息の支払方法 平成七年九月二日を第一回として返済期限の応答日に一箇月分の利息を支払う。
(三) 被告カメ子は、原告銀行との間において、本件一消費貸借契約の利息の支払のために、次のとおり金銭消費貸借契約を締結した(以下「本件三消費貸借契約」という。)が、弁済期において、元本一〇〇〇万円及び利息一〇万九三七五円(別紙利息計算表(2) のとおり)を支払わない。
契約日 平成三年一二月三〇日
元本 一〇〇〇万円
弁済期 平成九年一月二日限り一括返済
利息 年七・六二五パーセント
遅延損害金 年一四パーセント
利息の支払方法 平成四年二月二日を第一回として返済期限の応答日に一箇月分の利息を支払う。
(四) 被告カメ子は、原告銀行との間において、本件一、三各消費貸借契約の利息の支払のために、次のとおり金銭消費貸借契約を締結した(以下「本件四消費貸借契約」という。)。
被告カメ子が期限の利益を喪失した平成一〇年三月二日における残元本は五〇〇万円、利息は二〇万七八〇三円である(別紙利息計算表(3) のとおり)。
契約日 平成六年三月三一日
元本 五〇〇万円
弁済期 平成一一年四月二日限り一括返済
利息 年四・〇パーセント
遅延損害金 年一四パーセント
利息の支払方法 平成六年五月二日を第一回として返済期限の応答日に一箇月分の利息を支払う。
期限の利益喪失 原告が書面により督促しても、次の返済日まで元利金を返済しなかったときは、債務全額についての期限の利益を失う。
(五) 被告カメ子は、原告銀行との間において、本件一、三、四各消費貸借契約の利息の支払のために、次のとおり金銭消費貸借契約を締結した(以下「本件五消費貸借契約」という。)。
被告カメ子が期限の利益を喪失した平成一〇年三月二日における残元本は五〇〇万円、利息は二〇万七八〇三円である(別紙利息計算表(4) のとおり)。
契約日 平成七年三月二四日
元本 五〇〇万円
弁済期 平成一二年四月二日限り一括返済
利息 年四・〇パーセント
遅延損害金 年一四パーセント
利息の支払方法 平成七年五月二日を第一回として返済期限の応答日に一箇月分の利息を支払う。
期限の利益喪失 原告が書面により督促しても、次の返済日まで元利金を返済しなかったときは、債務全額についての期限の利益を失う。
(六) 被告カメ子は、本件四、五各消費貸借契約について、平成八年九月二日から利息を支払わなかった。
原告銀行は、同被告に対し、平成一〇年二月二七日到達の書面で延滞分の利息の支払を催告したが、同被告は、利息の支払をしなかったので、同年三月二日の経過をもって期限の利益を喪失した。
4 被告久子は、原告銀行に対し、本件二消費貸借契約については平成七年八月二日、本件三消費貸借契約については平成三年一二月三〇日、本件四消費貸借契約については平成六年三月三一日、本件五消費貸借契約については平成七年三月二四日に、被告カメ子の原告銀行に対する一切の債務を連帯保証した(争いない事実)。
5 被告カメ子は、原告信用開発との間に、平成二年七月二四日、同被告が原告銀行に負担する債務について原告信用開発が保証する旨の保証委託契約を締結し、被告カメ子、訴外スゞ及び同勇は、同日、原告信用開発との間に、別紙物件目録記載の各物件について、極度額一億六五〇〇万円、債権の範囲を保証委託取引とする根抵当権設定契約を締結し、原告信用開発は、本件各物件について、東京法務局平成二年一〇月一六日受付第一三一六号をもって根抵当権設定登記を行った(争いない事実と甲五ないし七、一二(技番も含む。)、証人佐伯)。
6(一) 被告カメ子は、原告銀行との間に、本件一ないし五各消費貸借契約を締結するに際し、印紙代合計一三万四〇〇〇円を、原告信用開発との間に、本件保証委託契約を締結するに際し、保証委託料一〇四万二一八〇円を、本件根抵当権設定登記を行うに際し、登記手数料等七〇万七七〇〇円をそれぞれ支払い、さらに、本訴提起のために弁護士費用三〇〇万円を支払った(弁論の全趣旨)。
(二) 被告カメ子は、原告銀行との間に、本件各消費貸借契約の利息として平成八年九月二日までに次のとおり合計二五三二万二一五四円を支払った(争いない事実と弁論の全趣旨)。
(1) 本件一消費貸借契約の利息として二二六九万五五六八円
(2) 本件三消費貸借契約の利息として二〇三万〇三八九円
(3) 本件四消費貸借契約の利息として三九万六一七八円
(4) 本件五消費貸借契約の利息として二〇万〇〇一九円
二 判断を必要とした争点
1 詐欺による取消し
原告第一生命の社員及び原告銀行の行員において、本件各変額保険契約、本件各消費貸借契約、本件保証委託契約及び本件根抵当権設定契約を締結するに当たって、欺もう行為があったか否か。
2 錯誤無効
被告カメ子が、原告第一生命との間において、本件各変額保険契約を締結し、原告銀行との間において、本件各消費貸借契約を締結し、原告信用開発との間において、本件保証委託契約を締結し、被告カメ子、訴外スゞ及び同勇が、原告信用開発との間において、本件根抵当権設定契約結するに当たって、錯誤があったか否か。
3 公序良俗違反による無効
4 不法行為
原告第一生命の社員において、本件各変額保険契約を締結するに当たって、断定的判断の提供、不実の告知、適合性原則違反、説明義務違反の各不法行為があったか否か。そして、原告銀行の行員において、原告第一生命の社員の説明に誤りや不十分な点を是正すべきであったのにこれを怠った点に不法行為があったか否か。
5 被告カメ子の損害額(主位的請求及び予備的請求)
三 争点に関する双方の主張
(被告らの主張)
1 本件の経過
(一) 被告カメ子は、当時五九歳で、本件土地のうち約九坪の共有持分を所有しており、土地の時価が坪二〇〇〇万円程度であったので、二億円弱の資産を有していると認識しており、相続時に土地を物納した近隣の事例を見たり、明治生命の外務員から相続税対策として変額保険の加入の勧誘を受けたりして、相続税対策をしないと本件土地を子供に残せないと考えていた。
(二) 被告久子は、平成二年三月ころ、明治生命の外務員から被告カメ子の相続税対策として、変額保険の勧誘を受け、訴外加藤に相談したところ、訴外加藤から原告第一生命にも同じような保険があるとの勧誘を受け、被告カメ子及び同久子は、同年六月ころ、訴外村瀬から喫茶店「リリー」において、変額保険の説明を受けた。
(三) 訴外村瀬は、右説明時において、被告カメ子らに対し、パンフレットや保障設計書を交付せずに、特別勘定の運用利率が九パーセントの場合しか示されていないシュミレーシヨン表(乙一、二、五〇〇〇万円の融資を前提にしたプランと一億円の融資を前提にしたプラン)を使用して、被告カメ子らに対し、変額保険の加入を勧め、七年経てば確実に税金分くらいの金員を捻出できると断定的判断を提供し、変額保険の保険料を株で運用することや変額保険に加入することによる危険性については全く説明をしなかった。
(四) 原告第一生命の平成二年一月一日契約の運用実績は、年複利に換算してマイナス一三・二二パーセントであり、九パーセントの運用とはかけ離れた数値であったにもかかわらず、訴外村瀬は、右数値について何の説明もしていないし、銀行金利については、平成元年一一月一日に六・二パーセント、同年一二月一日に六・五パーセント、平成二年一月四日に六・八パーセント、同年二月一日に七・五パーセント、同年四月二日に七・九パーセントと毎月のように上昇していたが、訴外村瀬は、右金利の動向や金利の水準が変額保険にどのようなマイナス効果をもたらすかについても説明をしておらず、かえって、シュミレーション表では、七・五パーセントという誤った金利の数値を用いて説明を行った。
(五) 被告カメ子が加入した本件各変額保険は、契約者及び被保険者を被相続人とする保険(以下「Aプラン」という。)ではなく、契約者を被相続人、被保険者を相続人とする保険(以下「Bプラン」という。)であったが、Aプランでは、被相続人が死亡した場合に最低保障の死亡保険金が支払われ、これによって相続税をまかない、借入金の返済をすることが予定されているが、Bプランでは、被相続人が死亡しても、死亡保険金は下りることはなく、相続税及び借入金に対する対応は、保険を解約して解約返戻金によってまかなうか、被相続人の死亡後において保険契約上の契約者貸付を受けてまかなうという方法が予定されている。そして、Bプランが相続税対策として有効であるのは、法定相続人が子供だけで、不動産を自宅以外にも所有しており、被相続人が保険に加入できない場合に、一〇年以上の長期的観点から加入する場合であって、夫がおり、不動産を本件土地の共有持分以外は所有しておらず、健康には何らの問題がなく被告カメ子自身が保険に加入できる同被告にとって、Bプランの適合性がなかった。
しかるに、原告第一生命は、同被告に対しては、当初Aプランを提示し、被告カメ子は、Aプランの加入申込書を作成したが、その後、原告第一生命においてBプランに変更して被告カメ子を変額保険に加入させたが、原告第一生命は、被告カメ子に対し、相続税対策として違いはないとの説明を行っただけで、Bプランの内容について何らの説明も行わずに、同原告の利益だけを考え、被告カメ子に適合性のないBプランによる変額保険を加入させた。
(六) 被告カメ子の資産は、本件土地のうち九坪であるが、本件土地の価額を路線価によって計算すると、課税対象資産は、約七二〇〇万円であり、当時の相続税額は零、一〇年後においても六五〇万円にすぎなかった。しかるに、訴外村瀬は、シュミレーション表において、一年後の相続税が約四〇〇〇万円、九年後には一億円を超え、一五年後には二億円という誤った相続税額を示し、しかも、同表では、被告カメ子の相続人は子供三人とされており、相続税の計算上重要な要素である配偶者の存在を無視していた。
(七) 被告カメ子は、変額保険に加入するに当たって、担保に提供する土地は、本件土地のうち被告カメ子の共有持分のみであると考えており、平成二年六月ころ、担保物件の確認に来た訴外佐伯にもその旨を話しており、訴外佐伯も被告カメ子の考えを認識していた。しかるに、訴外佐伯は、被告カメ子に対し、本件土地のうち被告カメ子共有持分についてのみ、根抵当権を設定すると欺もうし、本件土地は訴外スゞとの共有名義になっているので、訴外スゞの署名捺印も必要であると持ちかけ、同訴外人の署名捺印を得たばかりか、本件一、二各建物についても根抵当権を設定した。
(八) 被告カメ子は、本件土地のうち、訴外スゞの共有持分についても担保を設定するのであれば、変額保険に加入するつもりはなかったし、原告銀行から融資を受けるつもりもなかった。
2 原告らの詐欺
(一) 原告第一生命の社員は、本件各変額保険の募集に当たって、変額保険の特性全般はもちろんのこと、その危険性やBプランについても全く説明を行わず、当時の金利や変額保険の運用実績などについても正確な情報を提供することなく、被告カメ子の資産、予想される相続税及び相続人についても誤った情報を提示し、被告カメ子には相続税対策が必要であり、そのためには本件各変額保険に加入する必要があると欺もうして、同被告をして本件変額保険に加入させた。
(二) 本件各変額保険契約と本件各消費貸借契約は、密接に関連し一体のものであり、原告銀行は、被告カメ子との間に訴外村瀬が被告カメ子に示したシュミレーション表を稟議にかけており、被告カメ子において相続税対策が必要のないこと、被告カメ子の加入する変額保険がAプランからBプランに変更になったが、被告カメ子は、Bプランについて説明を受けていないことを知っていたはずであるから、原告銀行には信義則上変額保険の内容、危険性、借入利息との関係、契約者死亡後の法律関係について説明する義務がある。
しかるに、原告銀行の行員である訴外佐伯は、被告カメ子に対し、右の各点について何らの説明もすることなく、被告カメ子を欺もうして、多額の保険料支払のために本件各消費貸借契約を締結させ、さらには、本件保証委託契約及び根抵当権設定契約を締結させた。
(三) 訴外佐伯は、本件根抵当権設定に際し、被告カメ子を欺もうし、本件土地全部と本件一、二各建物についても根抵当権を設定した。
(四) 原告信用開発は、原告銀行の関連会社であり、原告銀行の欺もう行為について知っていた。
(五) 被告カメ子は、本件各変額保険契約、本件各消費貸借契約、本件保証委託契約を、被告カメ子、訴外スゞ及び同勇は、本件根抵当権設定契約をそれぞれ詐欺を理由に取り消す。
3 錯誤による無効
(一) 被告カメ子は、本来同被告には相続税がかからないのに多額の相続税がかかると誤信した点、本件各変額保険に加入することが相続税対策になると誤信した点、変額保険加入後七年を経過すれば、銀行からの借入元利金より変額保険の解約返戻金が上回るので、その後何時でも変額保険を解約して銀行からの元利金を返済することが可能であると誤信した点、変額保険一般のリスクはもちろんのこと、Bプランのリスクについて十分認識していなかった点、融資付き変額保険が欠陥商品であることを認識していなかった点などに錯誤があって、本件各変額保険に加入した。
(二) 被告カメ子は、本件各変額保険契約を錯誤により締結したことにより、これと一体となった本件各消費貸借契約及び本件保証委託契約を、被告久子を除く被告らは、本件根抵当権設定契約をそれぞれ錯誤により締結した。
(三) 被告らには、本件各契約締結に際し、動機の錯誤があり、右動機は、原告らに表示されていたから本件各契約は錯誤により無効である。
4 公序良俗違反
被告カメ子は、相続税対策として本件各変額保険に加入する必要性が全くなく、したがって、本件各消費貸借契約、本件保証委託契約を、被告カメ子、訴外スゞ及び同勇は、本件根抵当権設定契約をそれぞれ締結する必要はなかった。原告銀行及び原告第一生命は、右事実を知っていたにもかかわらず、被告カメ子に対し、何らの説明もなく多額の融資を実行し、変額保険に加入せしめたのであるから、本件各契約は公序良俗に違反して無効というべきである。
5 不法行為
(一) 原告第一生命の社員である訴外村瀬らは、変額保険に加入することにより七年経てば確実に税金分くらいの金員を捻出できることを強調して断定的判断を提供し、当時の金利や変額保険の運用実績、被告カメ子の資産価値、予想される相続税及び相続人について不実の情報を提示し、被告カメ子には相続税対策が必要でないのに、同被告が相続税対策のために本件各変額保険に加入する必要があるとの誤った説明をして不適合な契約を締結させ、変額保険の特性全般はもちろんのこと、保険料の大半を株式や債券に投資すること、投資の仕方や経済情勢により運用利回りが大きく変動する危険性があるし、銀行から融資を受けて変額保険に加入する場合には運用率が低下すると借入金を死亡保険金や解約返戻金で返済できなくなる危険性があることやBプランの内容についても全く説明を行わなかった。原告第一生命の社員には、これらの点に説明義務違反の不法行為があり、原告第一生命は、民法七一五条により不法行為責任を負う。
(二) 原告銀行の行員において、原告第一生命の社員の説明に誤りや不十分な点を是正すべき義務があったのにこれを怠った点に不法行為があり、原告銀行は、民法七一五条により不法行為責任を負う。
6 主位的請求の損害額
被告カメ子は、原告銀行との間に、本件一ないし五各消費貸借契約を締結するに際し、印紙代合計一三万四〇〇〇円を、原告信用開発との間に、本件保証委託契約を締結するに際し、保証委託料一〇四万二一八〇円を、本件根抵当権設定登記を行うに際し、登記手数料等七〇万七七〇〇円をそれぞれ支払い、さらに、本訴提起のために弁護士費用三〇〇万円を支払ったので、原告第一生命及び同銀行の不法行為による損害額は、四八八万三八八〇円である。
7 予備的請求の損害額
被告カメ子は、本件各変額保険契約の保険料として平成二年七月二七日合計五七一九万九四〇〇円を支払い、原告銀行に対し、本件各消費貸借契約の利息として平成八年九月二日までに合計二五三二万二一五四円を支払った。
(原告第一生命の主張)
1 本件各変額保険契約締結の経緯
(一) 被告カメ子及び同久子は、日ごろから相続税対策の必要を痛感していたところ、被告久子は、明治生命の外務員から変額保険の勧誘を受け、変額保険の仕組や変額保険がハイリスクハイリターンの商品であること、相続税対策として利用価値があることを認識して、積極的に相続税対策のために変額保険を利用したいと考え、被告カメ子に対し、変額保険契約の締結を勧めていた。
(二) 被告久子は、明治生命の外務員から変額保険購入資金を銀行から借り入れるためには、土地建物について相続登記をしておく必要があると言われており、被告カメ子は、同久子にせかされて平成二年三月二七日、本件土地及び本件一建物について相続を原因とする所有権移転登記をした。被告久子及び同カメ子は、保険料を借り入れるための準備作業を行って、既に変額保険に加入する意思を有していたのであり、明治生命から変額保険の商品説明と変額保険を用いた相続税対策についての説明を受けていた。
(三) 被告久子は、明治生命の外務員が平成二年三月中に変額保険の契約を締結しないと間に合わないと述べて、契約締結をせかしたため、不信感を持って、定額保険の加入で付き合いのあった訴外加藤に対し、その旨を確かめたところ、同加藤から右説明が虚偽であることを知らされるとともに、原告第一生命にも同様の保険があるとして勧誘を受け、変額保険について説明を受けることになった。被告久子は、訴外加藤及び訴外森に対し、被告カメ子の資産が本件土地の九坪分で二億円であり、これを子供に残したい旨を伝えていた。
(四) 平成二年五月の連休明けに、原告第一生命のファイナンシャルプランナーである訴外村瀬が、同加藤及び同森と共に、喫茶店において、被告カメ子及び同久子に対し、保障設計書とシュミレーション表を交付して、変額保険を利用した相続税対策の仕組みと変額保険商品の特徴等について説明した。
すなわち、訴外村瀬は、相続税対策としての生命保険の活用方法一般論、AプランとBプランの各仕組みと効果、保険種類の選択とそのメリット、デメリット、変額保険の仕組みを詳細に説明した後で、保障設計書とシュミレーション表を用いて、Aプランによる二例により変額保険を購入した場合のメリット、デメリットを説明し、最後に、変額保険のリスクについても説明した。
(五) 被告カメ子は、右説明から一箇月以上経過後に、Aプランによる変額保険契約申込書を作成し、訴外加藤にこれを交付した。
(六) その後、原告銀行において、被告カメ子が予定していた一億円の借入が認められず、融資金額が五〇〇〇万円であることが判明したため、訴外加藤と同森が相談の上、より低い保険料で高額の保険金を保障する方法として、被保険者を若い相続人とするBプランの提案を検討し、訴外村瀬の後任のファイナンシャルプランナーであった訴外小野寺(以下「訴外小野寺」という。)に被告カメ子の子供である三名を被保険者とし、基本保険額を各八〇〇〇万円とするシュミレーションを作成してもらい、訴外加藤と同森は、右シュミレーションと訴外加藤が作成した保障設計書に基づき、被告カメ子と同久子に対し、Bプランによる変額保険を説明して右保険の加入を勧誘した。
(七) 被告カメ子は、平成二年六月二五日ころ、契約者を被告カメ子、被保険者を同久子、被告カメ子の長女である訴外鈴木好子、三女である訴外田中利江とし、各基本保険額を八〇〇〇万円とする変額保険契約の申込みを行い、原告第一生命は、同年七月一〇日、被告カメ子に対し、各変額保険契約についての「ご契約のしおり 定款・約款」を交付し、被告久子、訴外鈴木好子は、同月一九日、訴外田中利江は、同月二一日、原告第一生命の診査医による診査を受けた。
(八) その後、原告銀行からの融資額の確定に伴って、被告カメ子の意向により、同月二四日、被保険者を被告久子及び訴外田中利江とする保険の基本保険額を一億円に、同月二六日、被保険者を訴外鈴木好子とする基本保険額を九〇〇〇万円に変更して、本件各変額保険契約を締結した。
2 原告第一生命の責任について
(一) 本件は、日ごろ相続税対策の必要を痛感していた被告カメ子及び同久子が、自ら積極的に変額保険の申込みをしてきた事案である。訴外村瀬が示したシュミレーション表における本件土地の価額及び相続人数は、被告カメ子らが示してきたものであるし、参考例として用いられているにすぎない。また、被告カメ子は、本件土地の同被告の共有持分を子供に残すことを希望していたのであり、相続人として配偶者も入れてシュミレーション表を作成することは被告カメ子の意向に反することであったし、本件土地の路線価は、昭和六一年八六万円、昭和六二年一七二万円、昭和六三年三一〇万円、平成元年三七二万円、平成二年四八四万円、平成三年五九五万円と著しく高騰を続け、東京都における地下再上昇の傾向についても新聞で報じられていた事情からすると、被告カメ子らの相続税対策のために変額保険に加入したという点に錯誤はない。
仮に、相続税対策の必要性に錯誤があったとしても、これは動機の錯誤にすぎず、要素の錯誤となるものではない。
(二) 被告カメ子らは、訴外加藤及び同森からBプランについてのシュミレーション表と保障設計書を交付され、これらに基づき説明を受けたことにより、Bプランについて十分理解をしていたから、この点においても錯誤はない。
(三) 変額保険は、大蔵省の認可を受けた商品であり、基本保険部分が最低保障されており、右最低保障に特別勘定における運用の成果を加味する商品であり、欠陥商品ではないから、この点についての錯誤はない。
(四) 被告カメ子及び同久子は、明治生命からの説明により変額保険の仕組みや特徴、相続税対策としての有用性を既に承知していた。これに加えて、訴外村瀬は、保障設計書とシュミレーション表を用いて、変額保険の仕組み、リスク及び相続税対策としての利用方法、効果について詳細に説明をしたし、訴外加藤及び同森は、Bプランについても説明をしているので、被告カメ子らに変額保険の内容について錯誤はないし、原告第一生命の社員は、説明義務を十分尽くしている。
(五) 以上のとおり、被告カメ子及び同久子が、本件各変額保険契約の締結において錯誤に陥ったことはないし、原告第一生命の社員の欺もう行為により本件各変額保険を締結したことはない。本件各変額保険契約が公序良俗に反し無効であるということもない。
また、原告第一生命の社員においては、説明義務を十分尽くしているので、原告第一生命の不法行為責任も認められない。
3 損害
被告カメ子は、本件各変額保険契約を解約しておらず、被告カメ子や被保険者は生命保険の利益を享受しており、現実の損害は発生していない。
平成一二年七月一一日現在における解約返戻金は、本件各変額保険を合計すると五七六一万四八〇五円となり、払込保険料の五七一九万九四〇〇円を上回っている。
(原告銀行及び原告信用開発の主張)
1 原告銀行の行員は、本件各変額保険の契約締結に至る経過において全く関与しておらず、原告銀行が被告カメ子の紹介を受けた時点では、同被告は、変額保険契約を締結する意思を固めており、原告銀行は、原告第一生命に支払うべき保険料相当額の融資の可否の打診を受けて、これを審査した結果融資を実行したにすぎないのであるから、原告銀行の行員には、欺もう行為はないし、欺もうの故意はないことは明らかである。
2 被告カメ子と原告銀行との間の本件各消費貸借契約の締結に関して契約上の意思が真意と一致しない点はない。
被告らの主張は、経済環境の悪化によって当初の思惑どおりの結果が出なかったということにすぎず、動機の錯誤にすら当たらない。また、本件各変額保険契約と本件各消費貸借契約は別個の契約であるから、本件各変額保険契約に要素の錯誤があったとしても、本件各消費貸借契約及び本件根抵当権設定契約が当然に無効にはならない。
3 被告久子は、平成二年二月ころ、原告銀行新宿支店を訪ね、本件土地と本件一建物の登記簿謄本を持参し、変額保険の保険料相当額の融資を求めた。その後、原告信用開発が、担保物件の現地調査を行ったところ、本件土地上には、未登記建物が存在することが判明したため、訴外佐伯は、原告第一生命を通じて、本件土地全部と本件一、二各建物に根抵当権を設定する必要があり、本件二建物について登記を行うことが融資の前提である旨伝えた。そして、訴外佐伯の指示に従い、同年六月二五日に本件二建物の表示登記が、同年七月六日に所有権保存登記がそれぞれ行われた。
同月一八日ころ、訴外佐伯は、被告宅を訪問し、被告カメ子、同久子及び訴外勇に対し、本件土地全部と本件一、二各建物に根抵当権を設定する必要があると説明し、本件根抵当権設定契約書に署名押印をもらい、被告カメ子から訴外勇と同榊スゞの印鑑登録証明書の交付を受け、被告カメ子から本件各消費貸借契約の申込みを受けた。
以上の経過からして、本件根抵当権設定契約に関して、原告銀行の行員に欺もう行為はないし、被告カメ子、訴外スゞ及び同勇に錯誤もない。
4 原告銀行には、変額保険の内容及び危険性について法律上これを説明する義務はないし、被告カメ子が、変額保険の内容について理解していないことや誤信している事情を知り得なかったから、原告銀行に説明義務が発生する余地もない。
5 被告カメ子は、本件各変額保険契約を解約していないから損害が発生していない。
第三争点に対する判断
一1 本件の経過に関する証人加藤、同村瀬、同佐伯の各証言及び被告カメ子、同久子の各供述は、それぞれ対立しており、後に述べるとおり証人加藤及び同村瀬の各証言並びに被告カメ子及び同久子の各供述には信用性に欠ける部分を含んでいるので、客観的な書証を中心にして、証人加藤及び同村瀬の各証言、被告カメ子及び同久子の各供述並びに右の者らの各陳述書は、以下に認定する事実に反しない限度で採用することとして、本件の経過を認定すると、前記第二、一の各事実及び証拠(甲五ないし七、九、一一ないし一三、乙一ないし三、一七ないし二三、二六、三〇、丙一ないし三、一三、一四、一七(枝番も含む。)、証人加藤、同村瀬、同佐伯、被告カメ子、同久子)によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告カメ子は、平成二年二月当時五九歳で、本件土地上にある未登記の本件二建物に夫である訴外勇と二女である被告久子と居住していた。本件土地及びその土地上の本件一建物は、被告カメ子の父で、昭和四九年三月一九日死亡した亡榊仙吉の相続財産であり、亡榊仙吉の所有権移転登記のまま置かれていた。被告カメ子は、本件土地のうち本件二建物が建っている約九坪の土地を亡榊仙吉から贈与を受けて所有しているという認識であり、本件土地の時価が坪二〇〇〇万円程度で二億円弱の資産を有していると考えており、相続時に土地を物納した近隣の事例などを見て、相続税対策をしないと被告カメ子の所有土地を子供に残せないのではないかと不安に思っていた。
(二) 被告久子は、当時三菱商事情報産業管理部に在職していたが、明治生命の外務員から相続税対策として銀行から保険料の融資を受けて変額保険に入ることを勧められており、平成二年二月ころ、被告カメ子と共に、明治生命の社員から保障設計書、シュミレーション表などを示され変額保険に関する説明を受けた(被告カメ子及び同久子は、明治生命の説明の際何の資料も見せられていないと供述するが、丙一八には保障設計書やシュミレーション表を使用して説明した旨の記載がある。保険の外務員が、全く資料を用いないで変額保険について説明をするとは考えられないし、後記(三)のとおり被告カメ子及び同久子が資料による説明を受けることなく、変額保険の保険料の融資を銀行から受けるための準備として、本件土地及び本件一建物について相続登記をしたとも考えられず、被告カメ子及び同久子の前記供述は採用できない。)。
(三) 被告カメ子及び同久子は、明治生命の社員から保険料を銀行から融資を受けて変額保険に加入するためには、本件土地及び本件一建物について相続登記を行う必要があると言われ、同年三月二七日、相続を原因として、本件土地については被告カメ子の持分四二九六分の九〇〇、訴外スゞの持分四二九六分の三三九六に、本件一建物については訴外スゞ名義に、それぞれ所有権移転登記をした。
(四) その間、被告久子は、明治生命の外務員から同年三月までしか契約のできない保険であるから急いで契約をするようにと言われたため、定額保険を加入していた関係で知り合いであった訴外加藤にその旨を確かめたところ、同加藤から明治生命の右説明が虚偽であることを知らされるとともに、原告第一生命にも同様の変額保険があるとして勧誘を受け、同原告から変額保険について説明を受けることになった。その際、被告久子は、訴外加藤に対し、被告カメ子の資産が本件土地の九坪分で約二億円であり、これを三人の子供に残したい旨を伝えていた。
(五) 原告第一生命のファイナンシャルプランナーであった訴外村瀬は、訴外森から被告カメ子及び同久子に対する変額保険の説明を依頼されて、平成二年五月ころ、喫茶店「リリー」において、訴外加藤及び同森と共に、訴外村瀬が同加藤らからの報告を下に作成したAプランによるシュミレーション表と訴外加藤が作成したAプランによる保障設計書を交付し、これに基づいて変額保険を利用した相続税対策の仕組みと変額保険の特徴等について説明した(被告カメ子及び同久子は、右説明の際、保障設計書の交付を受けていない旨供述するが、証拠(乙三の1ないし3、証人加藤)によれば、訴外加藤は、被告カメ子に対し、Bプランの保障設計書は作成して交付しており、同加藤は、Aプランについても被告カメ子のために保障設計書を作成したと認められるのであり、そうすると、訴外加藤から被告カメ子に対しAプランの保障設計書が交付されていたと認められる。)。
保障設計書には、基本保険金、変動保険金等の説明に加えて、変額保険の資産が特別勘定で運用され、上場株式、公社債等の有価証券を主体とした運用が行われること、契約者は、経済情勢や運用如何によって高い収益を期待できるが、一方では株価の下落や為替の変動による投資リスクを負う旨が記載されている。
訴外村瀬は、保障設計書の記載やシュミレーション表の記載を用いて、相続税対策としての変額保険の活用方法、変額保険においては保険料を債券や株で運用すること、変額保険は保険料の運用成果によって、死亡保険金や解約返戻金が変動するハイリスク、ハイリターンの商品であることなどの一般的説明を行った後、主に保険金二億四〇〇〇万円のシュミレーション表に従って、変額保険の運用率九パーセント、銀行利息七・五パーセント、被告カメ子が所有する土地の価額二億円で年七パーセント価額が上昇するという想定で、被告カメ子の三人の子供が相続する場合の変額保険に加入しなかったときの資産収支と変額保険に加入したときの資産収支の比較を説明した。
被告カメ子は、訴外村瀬の説明を聞いた時点では、変額保険の加入の申込みはしなかった。
(六) 一方、訴外加藤は、平成二年四月ころ、訴外佐伯の下へ、被告カメ子に対する変額保険の保険料の融資についての相談に赴き、同佐伯からの担保物件の登記簿謄本の交付を依頼されて、本件土地及び本件一建物の登記簿謄本を届けた。その後、原告信用開発が、訴外佐伯の依頼に基づき、担保物件の調査を行ったところ、本件土地上には、未登記の本件二建物が存在することが判明したため、訴外佐伯は、訴外加藤を通じて、被告カメ子に対し、未登記建物について登記を行うように依頼し、右依頼に基づき、同年六月二五日、本件二建物について表示登記が行われ、同年七月六日、訴外勇の所有権保存登記が行われた。
(七) 被告カメ子は、同年六月上旬ころ、訴外村瀬から説明を受けたAプランによる変額保険に加入することとし、右契約申込書に署名押印して、訴外加藤に交付したが、その後、原告銀行から原告第一生命に対し、被告カメ子に融資できる金額は五〇〇〇万円程度であるとの情報が入り、訴外加藤と同森は、右融資額では被告カメ子に対する保障額が小さくなるため、よりやすい保険料で高額の保険金を保障する方法として、被保険者を被告カメ子の子である被告久子、訴外鈴木好子及び同田中利江とするBプランによる変額保険に変更して加入させることとした。訴外加藤は、Bプランによる保障設計書を作成して被告カメ子に交付したが、右プランに基づくシュミレーション表は作成しなかった。そして、訴外加藤は、同年六月下旬ころ、被告カメ子に訴外鈴木好子を被保険者とする保険金額八〇〇〇万円、保険料一六四九万二八〇〇円、被告久子を被保険者とする保険金額八〇〇〇万円、保険料一六〇六万一六〇〇円、訴外田中利江を被保険者とする保険金額八〇〇〇万円、保険料一四八五万四四〇〇円とする変額保険契約申込書に署名押印させた。
原告第一生命は、同年七月一〇日、被告カメ子に対し、各変額保険契約についての「ご契約のしおり 定款・約款」を交付した。「ご契約のしおり 定款・約款」には、変額保険の特徴と仕組みが説明されていると共に、変額保険の保険金額は、実際の運用実績によって変動するので将来の支払額を約束するものではない旨の記載がある。
(八) 訴外佐伯は、同月一八日、被告カメ子宅を訪れ、同被告に融資極度額一億五〇〇〇万円とするスーパーローン極度申込書を作成させ、さらに、融資額七〇〇〇万円の本件一消費貸借契約書の申込書に被告カメ子の署名押印を求めた。
(九) 被告久子、訴外鈴木好子は、同月一九日、訴外田中利江は、同月二一日、原告第一生命の診査医による診査を受けた。
(一〇) 訴外加藤は、原告銀行の被告カメ子に対する融資額が七〇〇〇万円であることが分かったので、同月二〇日ころ、被告カメ子の前記変額保険契約申込書の訴外鈴木好子を被保険者とする保険金額を九〇〇〇万円に、被告久子及び訴外田中利江を被保険者とする保険金額を各一億円に増額させ、その際、被告カメ子に対し、三名の被保険者の保険金額を一億円とする保障設計書を交付した。
(一一) 訴外佐伯は、同年二四日、被告カメ子宅を訪れ、本件保証委託契約書に被告カメ子の署名押印を求め、本件根抵当権設定契約書に被告カメ子、訴外スゞ及び同勇の署名押印を求め、被告カメ子から訴外スゞ及び同勇の同月一八日発行の印鑑登録証明書の交付を受けた。
(一二) 同月二七日、原告銀行から原告第一生命に対し、本件各変額保険の保険料五七一九万九四〇〇円が支払われ、被告カメ子と原告第一生命との間において、同年八月一日、本件各変額保険契約が締結された。
(一三) 訴外佐伯は、同年九月一四日、被告カメ子から本件一建物の登記済み権利証を預かり、原告信用開発は、同年一〇月一六日、本件土地、本件一、二各建物に根抵当権設定登記をした。
(一四) 原告第一生命は、本件各変額保険契約締結後毎年、被告カメ子に対し、「変額保険のご契約内容のお知らせ」という文書を送付し、本件各変額保険の右時点における解約返戻金の額や変動保険金の推移を通知しているが、被告カメ子及び同久子から原告第一生命に対し右通知の内容に関して何らの苦情はなかった。
2 被告カメ子及び同久子の各供述、証人加藤及び同村瀬の各証言の信用性について検討する。
(一) 被告カメ子は、本件各変額保険契約を締結した当時、変額保険という言葉すら知らなかったこと、訴外村瀬から変額保険の保険料が株や有価証券で運用されることや変額保険がハイリスクハイリターンの性質を持った保険であることの説明はなかったし、シュミレーション表を使った説明内容についても理解できなかったこと、そのような状態で、本件各変額保険契約を締結したのは被告久子がいるからいいという気持ちや保険屋を信用していたからであること、原告第一生命には担保に入れるのは本件土地のうち九坪分だけであることを話したことなどを供述し、被告久子も、同被告が中心になって相続税対策の話をしたと供述する一方で、明治生命からシュミレーション表や保障設計書の交付を受けておらず、保険の名称についても聞かされていないこと、変額保険は一般の定額保険と思っていたこと、訴外村瀬から示されたシュミレーション表の一時払終身保険が変額保険であることを知らなかったこと、変額保険は土地を担保にして銀行からお金を借りて保険料を支払う保険と思っていたこと、訴外村瀬から変額保険の一般的説明はなかったこと、保険料を有価証券等で運用する話もなかったこと、訴外村瀬は被告カメ子に説明していたので、被告久子はシュミレーション表の意味を理解していなかったこと、同表の特別勘定や運用率についても具体的な中身の説明はなかったこと、保険に入ることが相続税対策になると言われたので言われるままに入ったことなどと供述する。
しかしながら、被告カメ子及び同久子の前記各供述は、自らの所有地を担保に入れて、銀行から五〇〇〇万円以上の融資を受けて保険契約を締結した者の供述としてはなはだ不自然であるし、同被告らは、既に明治生命から説明を受けて相続対策に有効な保険を明治生命と契約することを考え、銀行から保険料の融資を受けるために、本件土地及び本件一建物について未了であった相続登記をしてその準備をしていた者であり、また、明治生命の説明に関して疑問を持って、訴外加藤に確かめるほどの慎重な対応をしていた者であることを考えると、被告カメ子及び同久子の各供述は信用性に欠けるものといわざるを得ず、前記1の認定に反しない限りにおいて、その供述を採用できるにすぎないものである。
(二) 証人加藤は、乙二六と丙一三と全く異なった陳述書を作成しているのみならず、その証言内容も原、被告からの質問に対する証言が異なっており、また、被告ら代理人の質問については誘導的な質問に対して迎合的に答える証言が多く、その証言内容及び陳述内容とも信用性にはなはだ欠けるものであるといわなければならない。また、その証言内容を検討しても、訴外加藤が被告カメ子らに変額保険を勧誘した担当者であるのに、訴外村瀬が被告カメ子らに説明した内容を聞いていないと証言したり、Aプランの設計書を作成していても被告カメ子らに渡さなかったなどと証言するなど、保険の外務員の行動としては考え難い内容を証言をしているし、さらに、被告カメ子においても、原告信用開発に本件二建物を担保に入れたことを認める供述をしており、訴外加藤自身が訴外佐伯の下に原告銀行からの被告カメ子への融資の依頼に行っているのに、原告信用開発の担保に入っているのは、本件土地のうち被告カメ子の共有持分だけであると思っていたと証言するなど、その証言内容は、到底採用に値しない証言部分が多いといわなければならない。
(三) 証人村瀬は、被告カメ子及び同久子に対して行った変額保険の説明の際、まず、AプランとBプランの一般的な契約形態の違いを説明し、次にAプランとBプランの内容を説明し、それぞれによる相続税対策の効果の違いを説明したと証言し、その陳述書(丙一四)にも同様の記載がある。
しかしながら、前記1(五)のとおり、証人村瀬が右説明をした際、原告第一生命において被告カメ子に交付した資料は、Aプランのシシュレーション表(乙一、二)と保障設計書であり、証拠(乙二五、証人村瀬)によれば、右時点において、訴外村瀬及び同加藤において、被告カメ子が相続税対策のために加入する変額保険としてAプランによる変額保険を考えており、訴外村瀬においては、Bプランの変額保険は長期的な観点で法定相続人が子供のみで、不動産を自宅以外にも所有し、契約者が被保険者になることができない場合など限られた条件下にのみ勧めるべきものと考えていたことが認められる。
これらの事情からすると、訴外村瀬が被告カメ子に対し勧めるつもりがなく、また、シュミレーション表や保障設計書を用意していないBプランについても一般的な説明を加えるとは考えられないところであり、証人村瀬の被告カメ子らに対する説明の際、Bプランの説明も行ったとする証言部分及び陳述部分は採用できない。
二 一に認定した事実を前提に被告らの責任について検討する。
1 詐欺の事実
本件全証拠によるも、原告第一生命の社員及び原告銀行の行員の被告カメ子らに対する欺もう行為により本件各契約が締結されたという事実は認められない。
(一) 被告らは、まず、被告第一生命の社員が、本件各変額保険の募集に当たって、変額保険の特性全般はもちろんのこと、その危険性やBプランについても全く説明を行わなかった点に、同原告の社員の欺もう行為があったと主張する。
前記一に認定した事実によれば、被告カメ子及び同久子は、明治生命から変額保険の勧誘を受けて、変額保険の内容及びそのリスクについて一定程度の知識を有していたと認められるし、原告第一生命においては、訴外村瀬が被告カメ子及び同久子に対し、相続税対策としての変額保険の活用方法や変額保険においては保険料を債券や株で運用すること、保険料の運用成果によって死亡保険金や解約返戻金が変動するハイリスク、ハイリターンの商品であることなどの一般的説明を行っている事実が認められるのであり、この点に欺もう行為は認められない。
前記一2(三)のとおり、訴外村瀬においては、被告カメ子及び同久子に対し、Bプランについて説明を行っていたとは認められず、後記5のとおりAプランからBプランに変更した際における原告第一生命の社員の説明には不十分な点があったと認められるが、それが原告第一生命の欺もう行為によるものであるとの事実は、本件全証拠によるも認められない。
(二) 被告らは、次に、原告第一生命の社員が、当時の金利や変額保険の運用実績などについて正確な情報を提供することなく、被告カメ子の資産、予想される相続税及び相続人についても誤った情報を提示して、被告カメ子には相続税対策が必要であり、そのためには本件各変額保険に加入する必要があるとした点に欺もう行為があったと主張する。
前記一1(五)のとおり、訴外村瀬は、その説明の際使用したシュミレーション表において、変額保険の運用率を九パーセント、銀行利息を七・五パーセント、被告カメ子が所有する土地の価額を二億円という条件を想定し、被告カメ子の三人の子供が相続する場合の変額保険に加入しなかった場合の資産収支と変額保険に加入した場合の資産収支の比較を説明したことが認められる。
(1) 証拠(丙一一、一二の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、原告第一生命の変額保険の運用実績は、平成元年一月一日契約分について一二・九五パーセント、同年二月一日契約分について一〇・三三パーセント、同年三月一日契約分について一〇・〇七パーセント、同年四月一日契約分について八・六七パーセント、同年五月一日契約分について七・二七パーセント、同年六月一日契約分について六・六三パーセント、同年七月一日契約分について七・七三パーセントであり、運用実績としては低下傾向にあり、また、銀行金利については、平成元年一一月一日に六・二パーセント、同年一二月一日に六・五パーセント、平成二年一月四日に六・八パーセント、同年二月一日に七・五パーセント、同年四月二日に七・九パーセントと上昇傾向にあったことが認められる。
右事実によれば、訴外村瀬が平成二年四月に説明を行ったシュミレーション表記載の変額保険の運用率九パーセント、銀行利息七・五パーセントという数値は、現実の運用率及び銀行利息とは異なるものであったことが認められる。
しかしながら、証拠(乙一、二、証人村瀬)によれば、シュミレーション表記載の右数値は、シュミレーション表の記載から明らかなとおり、想定の数値として用いられたものにすぎないことが認められるし、右運用率及び銀行金利とも、固定的に定まっているものではなく、変動するものであって、訴外村瀬が使用した数値は、現実の数値とさほど乖離しないものであるから、訴外村瀬において、株価等や銀行金利の将来の予測の下に右のような想定した数値を使用したことをもって、訴外村瀬に欺もう行為があったと認めることはできない。
(2) 証拠(甲一〇の1、被告カメ子、同久子)によれば、被告カメ子には、三人の子供と夫である訴外勇がおり、同被告の相続人は三人の子供だけではなかったこと、本件土地の一平方メートル当たりの路線価は、昭和六一年五七万円、昭和六二年一七二万円、昭和六三年三一〇万円、平成元年三七二万円、平成二年四八四万円(右路線価によると、本件土地の被告カメ子の共有持分の価額は一億四四〇〇万円程度になる。)、平成三年五九五万円であったことが認められ、シュミレーション表記載の法定相続人が三人の子供のみであり、土地の価額を二億円とする記載は、実際とは異なっていることが認められる。
しかしながら、証拠(証人加藤、同村瀬、被告カメ子)によれば、被告カメ子は、本件土地の価額が坪二〇〇〇万円程度であり、二億円弱の資産を有していると認識しており、これを三人の子供に残したいと思って、その旨を訴外加藤に話していたこと、訴外加藤は、同村瀬に対し、被告カメ子の話を説明し、同村瀬は、自ら路線価や被告カメ子の法定相続人に関して調査することなく、右数値をそのまま使用してシュミレーション表を作成したことが認められる。
右事実によれば、法定相続人を三人の子供としたのは、被告カメ子の意思に基づくものであって(なお、証人加藤の証言によれば、訴外勇は病弱であったことが認められるのであり、被告カメ子の相続人が三人の子供となる可能性は十分認められた。)、この点において原告第一生命の社員に欺もう行為があったとは認められない。
訴外加藤及び同村瀬が本件土地の路線価について、自ら調査することなく、被告カメ子の話を鵜呑みにしてシュミレーション表の数値として用いたことはいささか不親切のそしりを免れないが、右事実をもって、原告第一生命の社員が被告カメ子を欺もうする意思であえて同被告から提示された数値を使用したとまで認めることはできない。
(3) 証拠(乙一〇ないし一三)によれば、株式の下落基調を指摘し、バブルはいつかは破裂することを論じた平成二年三月二三日付け新聞記事や大手の生命保険会社の決算期において、株の含み益が急減したことを指摘する同年六月七日付け新聞記事が存すること、東京圏の地価は、平成元年に比較的安定基調で推移し、平成二年後半に入ってわずかながら下落傾向が見られる等沈静化が認められたとの平成元年版土地白書、東京圏においては埼玉県の東京から比較的遠い地域、千葉県及び茨城県で地価が上昇する傾向が見られ、東京都、神奈川県ではほぼ横ばいで推移したとの平成二年版土地白書が存することが認められるが、一方、証拠(丙九ないし一一(技番も含む。))によれば、東京都の地価再上昇の傾向も一段とはっきりしてきたことを指摘する平成二年五月一八日付け新聞記事や地価上昇で小規模宅地でも相続税がかかる例が増えてきていることなどを指摘する新聞記事が存在し、また、経済企画庁は、平成三年において、好況から不況への転換点が同年四月であったと発表したこと、「株価・地価・主要金利の推移表」によれば、平成元年末から平成二年初めにかけて下落した株価は、同年中ころになって持ち直したこと、銀行金利は、平成二年は上昇したが、平成三年以降下降していることがそれぞれ認められる。
右事実によれば、訴外村瀬が、平成二年四月当時、土地や株の上昇傾向は将来も続き、小規模宅地を有する被告カメ子においても相続税対策を必要とすると考えた点は当時の客観的状況を考慮しても無理からぬ事柄であったといえるのであり、同訴外人において、相続税対策が必要でないのにこれを隠して被告カメ子及び同久子を欺もうして変額保険に加入させたという事実は認められない。
(三) 被告らは、訴外佐伯が本件土地のうち被告カメ子の共有持分についてのみ、根抵当権を設定すると欺もうし、本件土地の訴外スゞの共有持分及び本件一、二各建物についても根抵当権を設定したと主張する。
証拠(乙三〇、証人佐伯)によれば、本件一建物の登記済み権利証が、本件根抵当権設定契約時に被告カメ子から訴外佐伯に交付されずに、平成二年九月一四日になって交付されている事実が認められるが、被告カメ子は、本件二建物について根抵当権設定契約を締結したことは認める供述をしているし、前記一1(三)の事実によれば、被告カメ子は、既に、明治生命から銀行の融資を受けて変額保険に入るためには相続登記をしておかなければいけないと指摘され、その準備として、本件土地及び本件一建物について相続登記をしたのであり、被告カメ子には、その時点で本件土地及び本件一建物を担保に入れる意思があったと推認されること、証拠(甲六、一二の1、証人佐伯、被告カメ子)によれば、被告カメ子は、訴外佐伯から根抵当権設定契約書に訴外スゞの署名及び押印を求められて、署名については訴外スゞ自らにしてもらい、押印については同スゞの長男の嫁に依頼してしてもらったこと、訴外佐伯の依頼に応じて、訴外スゞの印鑑登録証明書も交付していることが認められる。
右事実によれば、原告銀行と被告カメ子、訴外スゞ及び訴外勇との間には、本件土地全部と本件一、二各建物について、合意に基づき根抵当権設定契約が締結されたことが認められるのであり、右契約が訴外佐伯の欺もう行為によって締結された事実を認めることはできないし、前記本件一建物の登記済み権利証が平成二年九月一四日になって交付されている事実をもって、訴外佐伯に欺もう行為があったとまで認定することはできない。
2 錯誤による無効
(一) 被告らは、本来被告カメ子には相続税がかからないのに多額の相続税がかかると誤信した点、本件各変額保険に加入することが相続税対策になると誤信した点に錯誤があったと主張する。
しかし、そもそも相続税については、相続の発生時期が不確定な上、その時点の相続税の法制度も明らかでなく、相続財産の上昇又は下降率、銀行金利、変額保険の運用率等の設定条件が変わることによっても大きく変動するものであるから、被告カメ子において、右事柄については、専門の税理士等に相談の上決定すべきものであって、相続税の節減額について思い違いがあったことをもって変額保険契約の締結に錯誤であると主張することはできないといわなければならない。
被告らが提出する証拠(乙四、二八)は、被告カメ子の相続人として訴外勇をも考慮している点において、被告カメ子が本件各変額保険契約を締結した当時想定していた事情と異なるものであるし(乙四によっても、二〇年後の相続税は三〇〇五万円であることが想定されており、訴外勇が相続人ではないとしたら、一層増加することは明らかである。)、証拠(乙七ないし九)における変額保険が相続対策にならないとの記載も、一定の条件の下で当てはまる事柄であって、これをすべての場合に妥当すると考えることはできない。
前記一1に認定した事実によれば、被告カメ子は、本件土地の価額や将来の土地の価額の上昇を予測して、自ら相続税対策の必要性を考えていたところ、明治生命の外務員から変額保険が相続税対策に有効であるとの説明を受け、さらには、訴外村瀬からシュミレーション表に基づき、変額保険の相続税対策の有効性の説明を受け、被告カメ子において、右シュミレーション表は一定の条件を想定して作成したものであって、相続税の対策完了効果は、確定的な数字ではなく、試算にすぎず、想定した諸条件が変わることにより変更するものであることを理解した上で、自らの選択に基づき本件各変額保険を締結したものと認められるのであり、その後、運用率が予測をはずれたために、相続税の節減額に見込みが違ったとしても、被告カメ子にこの点に錯誤があったということができない。
以上によると、相続税対策という点に関して錯誤があったとする被告らの主張は理由がない。
(二) 被告らは、被告カメ子が、変額保険加入後七年を経過すれば、銀行からの借入元利金より変額保険の解約返戻金が上回り、その後何時でも変額保険を解約しても銀行からの元利金を返済することが可能であると誤信した点に錯誤があったと主張し、被告カメ子、同久子は、訴外森ないし同村瀬から右のような説明を受けて錯誤に陥ったと供述し、証人加藤も同様の証言をする。
しかしながら、被告カメ子、同久子の各供述及び証人加藤の証言が信用性に欠けることは、前記一2(一)(二)のとおりであり、訴外森ないし同村瀬が右のような説明をしたという客観的な証拠の裏付けがない以上、被告カメ子、同久子の各供述及び証人加藤の証言によって右事実を認定できないし、その他訴外森ないし同村瀬が右のような説明を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、被告カメ子が、変額保険加入後七年を経過すれば、変額保険の解約返戻金が銀行からの借入元利金を上回り、その後何時でも変額保険を解約しても銀行からの元利金を返済することが可能であると誤信したとの事実は認められない。
(三) 被告らは、変額保険のリスク及びBプランのリスクについて十分認識していなかった点、融資付変額保険が欠陥商品であることを認識していなかった点に錯誤があると主張する。
前記一1(五)によれば、訴外村瀬が被告カメ子及び同久子に対し、変額保険においては保険料を債券や株で運用すること、変額保険は、保険料の運用成果によって死亡保険金や解約返戻金が変動するハイリスク、ハイリターンの商品であることなどの一般的説明を行っている事実が認められるし、同被告らに交付されたと認められるAプランの保障設計書及びBプランの保障設計書(乙三の1ないし3)においても、「ご契約者は、経済情勢や運用如何により高い収益を期待できますが、一方で株価の低下や為替の変動による投資リスクを負うことになります。」との記載があり、「ご契約のしおり 定款・約款」(丙七)においても変額保険の保険金額は、実際の運用実績によって変動するので将来の支払額を約束するものではない旨の記載があるから、被告カメ子及び同久子において、変額保険のリスクを認識していたと認められるから、この点に錯誤は認められない。
Bプランについては、後記5のとおり説明が十分でなかった点が認められるが、変額保険一般のリスクに関しては、Bプランにも当てはまるものであるから、この点についても被告カメ子及び同久子に錯誤があったとまでは認められない。
さらに、融資付変額保険が欠陥商品であるとは認められないから、この点の錯誤の主張も理由がない。
(四) 以上によれば、被告カメ子において、本件各変額保険契約を錯誤により締結したことが認められないから、本件各消費貸借契約及び本件保証委託契約並びに本件根抵当権設定契約を錯誤により締結したとの被告らの主張も認められない。
4 公序良俗違反
前述したとおり、被告カメ子において相続税対策として本件各変額保険に加入する必要性が全くなかったとは認められないし、本件各消費貸借契約、本件保証委託契約及び本件根抵当権設定契約が公序良俗に違反する契約であるということも認められない。
5 不法行為について
(一) 前記一1に認定した事実によれば、被告カメ子は、当初Aプランによる変額保険を加入するつもりで申込書まで作成したが、その後、Bプランの変額保険に変更されて本件各変額保険契約が締結されるに至った。
(二) 前記一1(七)、(一〇)の各事実によれば、Bプランについては、訴外加藤から被告カメ子に対し被保険者である三人の子供の各基本保険金額を一億円とする三通の平成二年七月二〇日付けの保障設計書が交付されており、右日時より前に各基本保険金額を八〇〇〇万円とする保障設計書が交付されていることが認められるが、証拠(証人加藤、同村瀬)によれば、Bプランについてのシュミレーション表については、訴外加藤及び同森において作成することができず、訴外小野寺においても作成していないので、これを交付していないことが認められる。
(三) そして、証拠(乙二五、証人村瀬)によれば、原告第一生命のファイナンシャルプランナーである訴外村瀬は、被告カメ子が相続税対策のために加入する変額保険としてAプランによる変額保険が適当なものであって、Bプランによる変額保険は長期的な観点から法定相続人が子供のみで、不動産を自宅以外にも所有し、契約者が被保険者になることができない場合など限られた条件下にのみ勧めるべきものと考えていたことが認められる。
(四) ところで、AプランからBプランへの変更の理由や原告第一生命の社員の被告カメ子への右変更に関する説明内容を明らかにする証拠としては、訴外加藤が原告第一生命の訴訟代理人に対し作成した陳述書(丙一三)が存在するだけであるが、右陳述書には、訴外加藤と同森が原告銀行から被告カメ子への融資額が五〇〇〇万円程度であると聞いて、Aプランでは保険金額が小さくなり、同被告もまだ若く早い時期に相続が発生するとは考えにくいので、長期的視野に立って、三人の子供を被保険者とするBプランを提案したこと、Bプランについては訴外村瀬においても説明して被告カメ子は理解していたと思われること、訴外加藤及び同森においても、訴外小野寺に作成してもらったシュミレーション表及び訴外加藤が作成した保障設計書に基づき、訴外森がBプランの内容について説明をしたとの記載がある。
右陳述書の記載内容は、訴外加藤が被告ら訴訟代理人に対し作成した陳述書(乙二六)の記載及び証人加藤の証言内容と全く異なるものであるし、訴外村瀬がBプランについて説明をしていたとする点、訴外小野寺にBプランのシュミレーション表を作成してもらったとする点において、前記一1に認定した事実と異なる内容であり、右陳述書の記載内容は、信用性に欠けるといわなければならない。
また、丙一三のAプランからBプランに変更した理由に関する陳述記載も、訴外加藤及び同森において、ファイナンシャルプランナーである訴外村瀬が勧めるべきものではないと考えていたBプランを、被告カメ子に対し勧めるに至った理由を、合理的裏付けをもって説明するものではない。
さらに、証拠(乙二五)によれば、Aプランでは相続が発生すると、遺族に死亡保険金が支払われ、保険金のうちから借入金の元利金を返済し、残額を相続税に充てることを予定しているのに対し、Bプランでは契約者が死亡した相続発生時には、マイナスの資産である借入金の元利金は大きく膨らんでいるのに対し、プラスの財産である保険の権利評価額が契約時点で評価されて将来も変わらないため、その差額分について他の財産の評価を減らすことができる点において相続税の節税効果を生じさせるというもので、相続税対策としての効果についても異なっていることが認められるが、訴外加藤及び同森において右の点を理解し、被告カメ子及び同久子に対しても、AプランとBプランの相続税対策としての違いを説明をして理解を求めたという事実も、本件全証拠によるも認められない。
(五) 以上のとおり、訴外加藤及び同森において、被告カメ子が加入すべき変額保険をAプランからBプランに変更した合理的理由が認められない上に、原告第一生命から被告カメ子に対しBプランについてのシュミレーション表も交付されておらず、被告カメ子に対し変額保険の加入を勧めていた担当者であった訴外加藤においてもBプランについてどのような説明を行ったかを明らかに証言できず、Bプランへの変更の理由やAプランとBプランの相続税対策としての効果の違いを説明した内容についても明らかではない以上、被告カメ子に対し変額保険を勧めていた担当者である訴外加藤には、Bプランについて十分な説明を行わずに、AプランからBプランに変更して本件各変額保険契約を締結させた点に説明義務違反が認められるといわなければならず、そうすると、原告第一生命には、使用者責任が認められる。
(六) 被告らは、原告銀行の行員において、原告第一生命の社員の説明に誤りや不十分な点を是正すべき義務があったのにこれを怠った点に不法行為があったと主張するが、原告銀行の行員において右のような説明義務を認めることはできない。
三 損害の発生の有無
1 被告らの詐欺の主張及び錯誤の主張は認められないから、本件各変額保険契約は有効であって、被告カメ子は、保険契約者としての地位を有しているから、まず支払保険料を損害とみる余地はない。
2 被告カメ子は、いまだ本件各変額保険契約を解約しておらず、証拠(丙一七)及び弁論の全趣旨によれば、平成一二年七月一一日に本件各変額保険契約を解約したとするならば、その解約返戻金は、払込み保険料を上回っていること、本件各変額保険の被保険者の各平均余命時点における基本保険金額は、原告銀行から借り入れた元利金を上回っていることが認められるのであり、右のような事情を考慮すると、いまだ被告カメ子の損害額は確定できず、現実の損害は発生していないといわなければならない。
3 そうすると、被告カメ子の不法行為に基づく損害賠償請求は、主位的請求も予備的請求も認める余地はない。
四 以上によれば、原告銀行の被告カメ子及び同久子に対する請求については、請求原因事実は争いがなく、同被告らの詐欺による取消し、錯誤無効、公序良俗違反の主張はいずれも認められないから、すべて理由がありこれを認容することとし、被告らの原告らに対する請求は、詐欺による取消し、錯誤無効、公序良俗違反の主張はいずれも認められず、不法行為に基づく損害賠償請求についても、原告第一生命に説明義務違反の点が認められるが、損害の発生が認められないので、主位的請求及び予備的請求のいずれも理由がないので棄却することとし、被告らの文書提出命令の申立ては、必要性が認められないのでこれを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 前田順司)
物件目録
一、土地
所在 東京都中央区日本橋茅場町参丁目
地番 壱弐番壱参
地目 宅地
地積 壱四弐、〇壱平方メートル
二、建物
所在 東京都中央区日本橋茅場町参丁目壱弐番地壱参
家屋番号 同町壱弐番壱参
種類 店舗兼居宅
構造 木造瓦葺弐階建
床面積 一階 六〇・参参平方メートル
二階 五弐・八九平方メートル
三、建物
所在 東京都中央区日本橋茅場町参丁目壱弐番地壱参
家屋番号 壱弐番壱参の弐
種類 居宅
構造 木造瓦葺参階建
床面積 壱階 弐五・五参平方メートル
弐階 弐五・六六平方メートル
参階 弐〇、七〇平方メートル